はてなビックリマーク

リテラシーと理解について考える

肉の加熱についてのメモ その2

 少し違う話ですが伝統的な日本料理では刺身や造り、向付等と呼ばれる主菜としての料理においては常に素材が「生」であるとは厳密には考えません。魚であっても「湯引き」や「塩物」「酢締め」のものや加熱した湯葉や筍などの精進物も有ります。
 ですが余程の理由のある場合を除けば消費者からは明らかに厳密な「生もの」を要求されます。
 通人やインテリの方には不評の「舟盛り・姿造り」等もニーズが存在します。
 ですから「ユッケ」を売らざるをえない焼肉店の立場には同情します。出さないと「怒る」お客さんは確実にいたでしょう。
 生肉を出さない店の多くは「淘汰」されていると考えます。
     
 現在の技術でも放射線の一種であるγ線(ガンマせん)の照射で殺菌した「生肉」は生食は可能だそうです。
 日本の消費者には忌避的な感覚があり現在日本では食品に対する放射線の照射が認められていないために製造流通は出来ないようですが、個人的には問題が無いと考えています。
      
 鮮度についてのみの管理や現場での工夫などの他の方法でも「肉の刺身」は難しいようです。
 特に九州などで多く食べられる鶏の刺身にはカンピロバクターの問題が有ります。
     
 今考えている疑問としては表面を薬剤ないしは加熱によって殺菌し、63℃30分〜で「加熱殺菌」した「刺身用加熱食肉製品」がなぜ存在しないかです。
 60〜150g位の小さなポーションのに切り分け、場合によっては発色剤や抗菌剤と保水成分を添加し、真空パックし加熱してから急速に冷却し必要であれば冷凍管理すれば「刺身」用の肉としては安全性に問題はないはずです。
 鶏肉の場合でもカンピロバクターは57℃から殺菌は出来るはずなのでほぼ安全な形での「刺身」の提供が可能になるように考えます。
       
 今回の事件で生肉の危険性の周知が進んだ筈なので、今まではコストの上がる形での加工にニーズが無かった物であっても商品化は出来るのではないかと思います。
 見た目や食感はある程度変わりますがその温度だと見た目も充分に「生っぽい」筈です。肉自体が持つ酵素も失活するはずです。
 製造時の衛生管理や輸送・保存時の温度管理と提供時の注意も必要ですが妥協点は見いだせないものでしょうか。
       
 今まで実用化されていないように見えるのは何らかの理由があるのでしょうか、個人的な経験としては65℃以下の加熱では比較的に「生っぽく」仕上がります。味も加熱により良くなる部分もあります。
   
 調べているとより低い温度でも殺菌が可能とも理解できる情報を見つけました。
    

特定加熱食肉製品 食品衛生なんでも相談室
    
特定加熱食肉製品は,次の基準に適合する方法で製造しなければならない。
a 製造に使用する原料食肉は,と殺後24時間以内に4°以下に冷却し,かつ,冷却後4°以下で保存した肉塊でpHが6.0以下でなければならない。
b 製造に使用する冷凍原料食肉の解凍は,食肉の温度が10°を超えることのないようにして行わなければならない。
c 製造に使用する原料食肉の整形は,食肉の温度が10°を超えることのないようにして行わなければならない。
d 食肉の塩漬けを行う場合には,肉塊のままで,乾塩法又は塩水法により行わなければならない。
e 塩漬けした食肉の塩抜きを行う場合には,5°以下の飲用適の水を用いて,換水しながら行わなければならない。
f 製造に調味料等を使用する場合には,食肉の表面にのみ塗布しなければならない。
g 製品は,肉塊のままで,その中心部を次の表の第1欄に掲げる温度の区分に応じ,同表の第2欄に掲げる時間加熱し,又はこれと同等以上の効力を有する方法により殺菌しなければならない。この場合において,製品の中心部の温度が35°以上52°未満の状態の時間を170分以内としなければならない。
第1欄 第2欄
55° 97分
56° 64分
57° 43分
58° 28分
59° 19分
60° 12分
61° 9分
62° 6分
63° 瞬時

h 加熱殺菌後の冷却は,衛生的な場所において十分行わなければならない。この場合において,製品の中心部の温度が25°以上55°未満の状態の時間を200分以内としなければならない。
なお,冷却に水を用いるときは,飲用適の流水で行わなければならない。
i 冷却後の製品の取扱いは,衛生的に行わなければならない。
 http://shokuei.web.infoseek.co.jp/archive/kokuji/08nikuseihinn.html#2_2_33

   
 こちらにも同様の内容が
>信州ジビエ衛生マニュアル ― 調理編 ― 1 加熱調理と食中毒の防止
 http://www.pref.nagano.jp/eisei/syokuhin/nyuniku/jibie/jibie05.pdf
    
 考え方としてはこちらに
>加熱食肉製品の製造基準で言う 70度1分=63度30分とは他の温度だとどんな温度か 目安を書き並べて見ます。
 http://blog.livedoor.jp/foodsnews/archives/50309615.html
>CCPのCL-管理基準(許容限界)の設定
 http://www.foodesign.net/cltoha.htm
    
 これらを見るとタンパク質がそれ程変化しない温度でも殺菌が可能にも見えます。
 所謂パストゥール法ですが例えば61度で1時間程度の加熱での殺菌が出来るのなら凝固温度以下で「調理」出来、より「生」に近い形での提供がより安全な形で可能なのかも知れません。
 どうしても「生食」にこだわる「食文化」は残る筈ですが少しでも安全な形での落とし所があれば良いと考えます。
       
 例えば卵については低温の加熱殺菌が認められてもいます。

(Ⅱ) 厚生省通知(平成10年11月25日 第1674号)食品衛生法に基づく食品、添加物等の規格基準(抜粋)(PDFです)
オ 殺菌
液卵は、つぎの条件又はこれと同等以上の効力を有する方法に
より加熱殺菌すること。
(ア)液卵(加糖または加塩したものを除く)
a.連続式により殺菌する場合
全卵: 60℃ 3.5分間
卵黄: 61℃ 3.5分間
卵白: 56℃ 3.5分間
b.バッチ式により殺菌する場合
全卵: 58℃ 10分間
卵黄: 59℃ 10分間
卵白: 54℃ 10分間
 http://www.jz-tamago.co.jp/hourei/2.pdf

 これに準じた形での基準を設けることは出来ないものなのでしょうか。
   
 個人的には衛生・医療や食品加工や微生物を専門とされる方は確実な殺菌消毒を前提としてオートクレーブと云う器具を用いた高圧蒸気滅菌法による高温での芽胞も含めた確実な殺菌を理想とされるために中途半端な殺菌は無意味だと考えられるのかも知れませんが、実現可能な範囲で確実にリスクを下げられるのではないかと素人ながら考えています。
              
 既に何らかの研究が行われ現実には問題があることが明らかなのかも知れません。ご教授いただけると有難いです。

 イギリスで行われたらしい肉の加熱実験です。
>Science of the Kitchen: Cooking Meat by Jack Lang
http://forums.egullet.com/index.php?/topic/40548-science-of-the-kitchen-cooking-meat/