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リテラシーと理解について考える

肉の加熱についてのメモ その1

 問題になっている「肉の生食」についてですが。詳しく書かれたものはこちら。
             
>肉の生食関係エントリまとめ 食の安全情報blog
 http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20110502/1304255933
          
>国のメッセージはずれていないか?〜腸管出血性大腸菌食中毒 FOODCOM.NET
 http://www.foocom.net/latest-topics/
       
 厚労省の説明は分かりにくいですが、ほぼ問題点は書かれてるようにも見えます。
 特に異論はありません。 後遺症が残る可能性もあり単に「お腹をこわす」だけではない危険な食中毒で有ることがひろく認知されるべきです。
           
 しかしこれらを読まれている一般の方の記事やコメントでの「加熱」の理解に微妙に誤解も有るかなとも思います。 
 「生っぽい肉は全てダメだ」とか「中に赤みが残っているものは生焼け」と理解されている方も多いようにも見受けられます。
 家庭や店で普通の方が加熱する場合はその通りで間違い無く、焼きすぎても安全に傾くだけなので問題はないのですが個人的な見解を書いておきます。間違いがあれば御指摘お願いします。
         
 肉の加熱については厚生省による基準だと
        
>腸管出血大腸菌Q&A Q23 食肉は、熱を通せば大丈夫ですか?
 http://www1.mhlw.go.jp/o-157/o157q_a/index.html#q23
         
に「腸管出血性大腸菌は75℃で1分間以上の加熱で死滅しますので、食肉も加熱して食べる限り、安全です。」とあります。しかし。
>腸管出血大腸菌Q&A Q26 低温殺菌の牛乳では、腸管出血性大腸菌も殺菌されていますか?
http://www1.mhlw.go.jp/o-157/o157q_a/index.html#q26
       
には「低温殺菌牛乳は殺菌条件である63℃で30分の加熱処理されており、腸管出血性大腸菌は死滅します。」とあります。
    
 ここでは二つのポイントが示されます。
1)厚生省の言う加熱による腸管出血性大腸菌の殺菌とは100℃の水の沸点ではなく標準としては75℃1分を指す。
2)しかしより低温の63℃30分の加熱処理でも殺菌は可能とされている。
 つまり肉の加熱に於いては技術的に可能であれば所謂「完全に火を通す」と一般に認識されているよりも「浅い火の通し方」でも殺菌できる場合があるということです。
    
 他の菌等についても
 カンピロバクター
カンピロバクター食中毒を防ぐには くらしの健康 東京都健康安全研究センター
 http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/health/07/1-2.html
        
 によると65℃/30秒、60℃/1分での死滅が確認されているとあります。
    
 サルモネラ
サルモネラ対策のとりくみ JA全農たまご(株)
 http://www.jz-tamago.co.jp/06-g.htm
によると「62〜65℃で30分の加熱で死滅します。」と有ります。
     
 黄色ブドウ球菌
>7.ブドウ球菌食中毒 (河端俊治:国立予防衛生研究所食品衛生部客員研究員・農学博士) アサマ化成株式会社
http://www.asama-chemical.co.jp/KIN/ST/ST.HTM
 には「60℃で30〜60分で死滅する。」とあります。
黄色ブドウ球菌によって生成された毒素は耐熱性があり一般的な加熱では無くすことは出来ません)
    
 ノロウイルスのリスクのあり得るハンバーグやその他の料理などは85℃1分以上が必要とされています。
    
 ボツリヌス菌とウエルシュ菌は一般的な加熱では死滅しません。
 毒素はボツリヌスでは100℃1分、ウエルシュが60℃1分で失活(無毒化)されます。
    
 E型肝炎ウイルス
>食肉を介するE型肝炎ウイルス感染事例について 厚生労働省
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/08/h0819-2a.html
 のQ13に「63℃で30分間と同等以上の熱処理で感染性を失う」とあります。
      
 一部では誤解があるのかも知れませんが「肉の加熱」は一般的に認識されている「完全に火を通す」とは正確には異なります。
 この比較的低い温度で「加熱」を行う技法には肉製品については法的にも根拠が存在します。
       
>特定加熱食肉製品 第2章 表示 〔表示の基準〕 第21条
 ム 特定加熱食肉製品(その中心部の温度を摂氏63度で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法以外の方法による加熱殺菌を行った食肉製品をいう。ただし、乾操食肉製品及び非加熱食肉製品を除く。以下同じ。)
 http://www.mmjp.or.jp/yokojyuu/low/low/low_036.html#id_21
(13/11/30 現在は削除されている項目、現在は下記の厚労省リンクの基準*1。削除前の記載はこちらhttp://www.lawdata.org/law/htmldata/S23/S23F03601000023.html#1000000000002000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
               
 より詳しくはこちら(PDFです)
厚生労働省 食肉製品
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/jigyousya/shokuhin_kikaku/dl/09.pdf(修正)
   
 肉類のタンパク質は45℃位から変化が始まり、一部が凝固し始める温度が63℃からで68℃で水分を分離し始め88度でほぼ固まります。
 固まった状態が所謂「火が通った」と云われる状態です。
 卵を半熟状態に仕上げる「温度卵(温泉卵)」は卵黄と卵白のタンパク質の違いを利用し63〜68℃で15〜40分以上加熱し殺菌も行う調理法です。牛肉に於いては「ローストビーフ」等でも行われる技法です。「半生」「生焼け」にも見えますが上手く出来たものは必要な加熱が出来ています。
 現実には牛肉の場合は表面の熱処理と衛生管理が適正に行われればより低い55℃〜からの温度での商品化が可能とされています。
    
 特に現代的な手法としては「真空調理」と云われる素材を合成樹脂のフィルムで密閉し比較的低温で加熱した見た目には「赤み」の残る状態でも必要な加熱ができている「加熱食肉製品」が存在します。これは適切な管理が行われている場合は「安全」な食品です。
 安全に傾く、それ自体は正しい「生肉忌避」が、高度な管理が行われた、本来は生とは異なる実は安全性の高い食品の「風評被害」に繋がるべきではないとも考えます。
    
 ビーフステーキやラム肉等の「レア」でも表面の加熱が出来ていて内部も適切に衛生管理が行われ必要な加熱がされていれば基本的に安全です。
 牛肉の場合は表面を加熱処理する「たたき」でもある程度リスクを下げることは可能です。
 勿論菌の再付着を防ぐ工夫も必要で完璧な手段でもありません。無理に食べる必要も無いでしょう。
 ですが嗜好品について安全に傾く誤解は個人の判断としては間違いではないのですが、プロの専門家が合理的な判断に基づき行う加熱を単に加熱不足で危険と理解される事があるとすれば残念な気もします。
         
 この件で余り「特定加熱食肉製品」に触れる方もいない様なので書いておきます。
 ついでに申し上げると生ハム等の「非加熱食肉製品」も「生肉」ですが安全基準に合えば高齢者や小さなお子さん・妊婦の方は避けたほうが良いかも知れませんが基本的には問題はありません。 
                           
 逆に「火を通してあるから」というのも完全な安全を保証するものではありません。
 生肉を処理した俎板や調理器具を適切に洗浄消毒せずに火を通した肉を接触させ、そこから微生物の感染を招く場合があります。
 現実には食中毒が起きる食品には加熱済みの料理も多くあります。「加熱」を過信することにも注意が必要です。
 「鮮度が肝心」が「鮮度さえよければ安全」にすり変わって起きた問題を「加熱さえすれば安心」だけで済ます事になるほど簡単では無いと考えます。

*1:「特定加熱食肉製品」は55°97分、56°64分、57°43分、58°28分、59°19分、60°12分、61°9分、62°6分、63°瞬時。とされ「加熱食肉製品」が63°で30分間加熱又はこれと同等以上となる