はてなビックリマーク

リテラシーと理解について考える

淡水養殖と川魚料理の「いま」

 ニホンウナギがついに絶滅危惧IB類(近い将来における絶滅の危険性が高い種)に指定されました。
 長年にわたる乱獲と環境の変化によるもので「資源管理」については10年以上前から問題があると考えられていましたが残念ながら「放置」されここまで深刻な状態になったといえます。
   
>平成25年2月1日 第4次レッドリストの公表について(汽水・淡水魚類)(お知らせ)環境省
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=16264
   
 背景や問題点についてはこちらが詳しいと思います。   
>ウナギが絶滅危惧種!? レッドリスト指定について 紺色のひと
http://d.hatena.ne.jp/Asay/20130201/1359691155
   
 「資源回復」までの漁獲制限や禁漁を早期に行わざるを得ないと考えます。
 自然環境の管理は科学的な視点から適切に行われるべきです。
 安易に外国のせいにするのではなく自国からでも率先して問題に立ち向かうべきです。
   
 「日本」では古来から淡水水産資源を動物性食品として用いてきました。汽水域も含め内水面漁業ともいいます。
 河川や池沼から得られる魚介類等は海から得られるそれよりも容易に得ることが出来、水田稲作という生業の一部として灌漑淡水に付随する漁は食料生産の一部として「伝統的」な生活スタイルでもあります。東アジアの水田稲作地帯では一般的に見られます。
 
 特に長年、食肉用の「畜産」が行われなかった本州日本では動物性の食料を得る手段としては狩猟よりも重要であったといえるのかも知れません。水田や灌漑水路・溜池で古くから「半養殖」ともいえる水産資源生産が存在し鯉等の養殖も行われてきました。
 現在の多くの(特に都市圏の)消費者にとっては食用の「魚」とは多くの場合海水魚を指す事が多いのでしょうが、昔からそうであった訳ではありません。
  
 人口の増大と技術の進歩、環境・生活習慣の変化によって特に「自然・天然」の淡水水産資源は用いられることが少なくなりました。
 過大な採取は環境に対する負荷にもなります。自然環境からの過剰な搾取は行うべきではないでしょう。
 水産資源・食料生産としては比較的小規模ではありますが淡水養殖が全国で行われています。
 その「いま」について幾つか述べてみます。
   
 古典的な淡水養殖としては「鯉・コイ」があります。近世初期には既に行われていたようです
 鯉は伝統的に高級魚として扱われ古代から神饌として用いられ宮中でも重んじられ、中世に成立した包丁式でも水鳥と共に主役として扱われました。近世以前は真鯛以上の役割を持たされてきました。
 基本的にはヤマトゴイと呼ばれる品種のものが多いのですが、品種改良も行われ見た目の良い「錦鯉」も作られ、近年ではドイツ鯉等との交配品種等も知られます。
 雑食で比較的に育て易く移動にも強いのですが「締めた」後急速に味が落ちるために活魚での使用が求められます。
 「洗い」等刺身類や焼き物、甘露煮や味噌煮の「鯉こく」等が知られます。白身魚ですが中華等の油物にも合い、ヨーロッパでも食べられていてシチューや蒸し物・パイ包み焼き等洋風の料理にも利用できます。
 飼料や肥育にもノウハウの蓄積が有り、水温管理や「仕上げ」によっても品質が変わります。実は比較的安価です。
   
 現在流通している「鮎・アユ」は殆どが養殖のものです。
 淡水養殖魚としては現在ウナギに次ぐ規模とされます。
 天然鮎は高価ですが養殖鮎は小型で一尾100円程度の安価なものから「天然仕上げ」等と名乗る2〜400円程度の比較的高価なものまで幅広く流通します。
 昔は琵琶湖産種苗が全国で用いられましたが近年は人工種苗のものが多くなったそうです。
 養殖物は香りが薄く、一部脂の乗りすぎたものや痩せ過ぎで食べ応えの無いものもありますが比較的美味しいといえます。
 塩焼きが主流ですが稚鮎・子鮎や小型の鮎は天ぷら等揚げ物も美味しく、一夜干しや特殊なものでは煮干し・焼干しもあります。甘露煮や姿寿司南蛮漬けでも美味しくいただけます。「伝統的な」なれずしも有ります。鱗やワタを取らなくても利用できるのも便利です。
  
 ウナギに近いともいえるのが「泥鰌・ドジョウ」です。ドジョウの仲間にはシマドジョウ、アジメドジョウ等の種類も有ります。
 水田や簡易な養殖施設での飼育が可能です。古来から最も身近な動物性食材として水田稲作地帯では用いられてきました。
 大きな物は割いてから鍋物や味噌汁や蒲焼に、小さな物はそのままで鍋・味噌汁や唐揚げ等揚げ物、甘露煮に用います。
 栄養が豊富でウナギ以上の「スタミナ食」です。天然物との競争力が強いとはいえないようです。
>やすぎどじょう
http://www.dojou.net/index.html 
             
 続いては「鯰・なまず」です。鯰は「共食い」の性質があり養殖は困難とされてきましたが現在では飼育環境の工夫で採算レベルまでの歩留まりでの養殖が可能とされています。
 見かけによらず白身の淡白な味の魚で、天ぷらや唐揚げ等の油物や汁物鍋物、「すっぽん仕立て」の汁物や付け焼きや蒲焼にも向いています。「湯引き洗い」や管理生産されたものは刺身に出来る物もあるそうです。白身なので中華や洋風も問題無いでしょう。
>日本鯰養殖のなまず
http://www5d.biglobe.ne.jp/~cat-fish/yamy.html
  
 昔は良く食べられていた「鮒・フナ」。養殖はゲンゴロウブナとギンブナが一部がいます。水田等でも養殖が可能なそうです。少し癖の有る美味しい白身魚で塩焼き、煮付け、甘露煮、味噌煎り、子まぶし等。産地によっては刺身や洗いはお勧めできないのですが酢じめにして和え物等にするのも良いでしょう。中華や洋風でもいけるでしょう。
   
 昔から滋賀・京都周辺では味がよいと珍重される高級魚「本諸子・ホンモロコ」も養殖されています。
 くせが無く肉に旨みがあり、塩焼き、天ぷら唐揚げ等の揚げ物、甘露煮が知られます。
>休耕田でホンモロコを養殖してみませんか? 現代農業
http://www.ruralnet.or.jp/gn/201007/honmoroko.htm
 ちなみにホンモロコは絶滅危惧IA類です。
  
 北陸・金沢周辺ではカサゴ目カジカ科の「ゴリ」の養殖が行われています。洗い、唐揚げ、甘露煮、骨酒、味噌汁や塩焼きにも用いられます。 岐阜や長野でも養殖されているようです
   
 長野では「ウグイ(ハヤ)」も養殖されているようです。骨切りをして塩焼きにするか唐揚げ、甘露煮にするそうです。
 汽水にも多い「ボラ」も淡水養殖が行われる事もあるそうです。泥臭く油臭くないものは白身で美味しい魚です。刺身焼き物煮物等。出世魚で幼魚の「イナ」の名で呼ばれることもあります。
    
 養殖として規模が大きな物には「虹鱒・ニジマス」もあります。
 ニジマスは近代になってから北米から養殖魚として移入されたものです。一時は輸出もされるような大きな産業でしたが現在は国内消費だけで利用されています。
 サケ科の淡白な魚とされ20cm程度の物がスーパーなどで安価で売られていて塩焼きやバター焼き、キノコや野菜とバターやオリーブオイルで調味しホイル焼きに使われるのが多いでしょう。
 しかし実際はその程度の大きさのニジマスはまだまだ「幼魚」といってもよく、後1年以上育てると40cm以上・1kg以上にも育ちます。小さな物は淡白で幾らか味気ないとも感じられるニジマスですが大きく育てた場合は脂の乗った旨みの有る魚になります。一部の寿司店でも用いられていますが生食でも美味しいものです。割高になるのでそれほど流通していないのは勿体無いと感じます。
 小さなニジマスでも鮮度の良い品は三枚卸しにして「ヅケ」にし「島寿司」風の握り寿司にしてもいけます。
>全国養鱒振興協会 ニジマス
http://www.zenmasu.jp/new.html
>【追記】甲斐サーモンのご紹介 山梨養殖漁業協同組合
(2年物生食可能ニジマス
http://nashiyousyoku.net/kaisalmon.html
>群馬の最高級ニジマスギンヒカリ 群馬県庁(生食可能3年物)
http://www.pref.gunma.jp/06/f2210001.html
        
 サケ科の仲間では「アマゴ・雨子」や「ヤマメ・山女」も養殖されています。
 アマゴはサツキマス、ヤマメはサクラマスの陸封型で味もよく、塩焼きや天ぷら唐揚げだけでなく姿寿司も知られます。
 サツキマスサクラマス(及びビワマス)は近縁の亜種だそうです。
     
 全国養鱒振興協会では管理生産された国産のサケ・マス類は生食が可能だとしています。多くの公共機関もその見解を支持しているようです。確認の取れないものは生食は避けるべきでしょう。*1
http://www.zenmasu.com/recipe01.html     
水産庁 養殖業の意義  コラム:生で食べられるようになったサケ・マス類
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h25_h/trend/1/t1_1_1_1.html
       
 幻の魚といわれた「イワナ・岩魚」も養殖されています。イワナは亜種としてアメマス、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴギがあり他に近縁種として北海道のオショロコマ、アメマス、ミヤベイワナ等があるそうです(岩魚の亜種については異なった考えもあるそうです)。
 本州で養殖されるのは通常ニッコウイワナですが北海道ではミヤベイワナの養殖も有るのだそうです。
 塩焼き、天ぷら唐揚げ等の揚げ物、甘露煮に用いられも3年程かけて育てた大きな物は刺身にも用いられます。サケ科としては幾らか白っぽい身で上品な味わいです。
       
 鮎やニジマスやアマゴ・ヤマメやイワナの養殖の小振りな物では香りが薄く味が物足りない場合もあるので味噌を付けて焼く「魚田(魚の田楽)」という調理法もありますが、その味噌の中に香味野菜や場合によってはバター等油分を足すとコクと風味を補うことが出来ます。
 川魚の刺身には酢味噌が合いますがオリーブオイルを隠し味にしても良いです。
 白身もサケマス系も香味野菜や香草を用いたワイン蒸し酒蒸しもよく合います。
 姿物の川魚を甘露煮にする場合は大体が一度白焼きにしてから骨まで柔らかくなるまで煮ます。
  
 ベニサケの陸封型「ヒメマス・姫鱒」も小規模ですが養殖されています。鮮度が特に重要ですが大変味のよい高級魚です。焼き物や天ぷら、刺身・寿司にも。
        
 イワナ以上に「幻の魚」といわれる「イトウ」も養殖されています。地域限定で出荷されているらしいので見かけたことはありませんが大変美味しいとされています。刺身や焼き物で使われるそうです。
>青森のうまいものたち 世界自然遺産白神山地の清水を使用して幻の魚「イトウ」を養殖…赤石水産漁協(鰺ヶ沢町
http://www.umai-aomori.jp/know/sanchi-report/103.phtml
  
 遺伝子ゲノムを複数持つという倍数体という(農作物にも有る)改良品種の「三倍体」という「より大きく」育つ三倍体イワナというのもあります。「危ない技術」ではなく味もよく生殖能力が無いらしいので遺伝子撹乱も起こさないようです。刺身やきずし、ムニエルなど。
>伊達嘉魚 全雌三倍体イワナ
http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/129568.pdf
    
 倍数体はアマゴも商品化されていて(飛騨大天女魚・ひだおおあまご)ヤマメ、ニジマス、コイ、金魚、真鯛でも存在します。
>子ども水産大学 マンボウ水産大学 バイオテクノロジー講座  日本水産学会           
http://www.miyagi.kopas.co.jp/JSFS/JSFS-kids/daigaku9.html 
ヤシオマス 栃木県養殖漁業組合(ニジマス3倍体)
http://tochigiyoushoku.com/masu/index.html

 同じサケ科を掛け合わせる品種改良も行われます。「絹姫サーモン」はニジマスとアマゴを掛け合わせた「ニジアマ(紅)」とニジマスイワナを掛け合わせた「ニジイワ(白)」があります。これも三倍体です。
 紅のほうが味が濃厚で白のほうが淡白です。脂の乗りが適度で刺身が大変美味しい。フライやムニエルも。
>愛知県淡水養殖漁業協同組合
http://www.tansui.net/salmon.html
         
 ニジマスブラウントラウトを掛け合わせた三倍体「信州サーモン」は「絹姫サーモン(紅)」に比べると幾らか淡白な味です。
>長野県水産試験場 信州サーモン
http://www.pref.nagano.lg.jp/xnousei/suishi/s_salmon/salmon.htm
     
 同じ長野で養殖されているのがサケ科でも毛色の違う東欧原産コレゴヌス属「信濃雪鱒・シナノユキマス」です。顔つきもサケというよりすっきりした顔立ちで銀色に輝く美しい魚です。
 刺身で食べると大変繊細で旨みのある脂の大変美味しい魚です。マリネ・きずしやムニエル、フライも。味噌漬け味噌焼きも合います。鯉ほどでは有りませんが鮮度が重要。
>長野県水産試験場 シナノユキマス
http://www.pref.nagano.lg.jp/xnousei/suishi/yukimasu/yukimasu.htm
  
 「ギンザケ・銀鮭」も稚魚の状態から1年程は淡水で育てます。その後海水養殖に切り替え肥育します。刺身でも美味しい。
 
【追加】「ペヘレイ」はアルゼンチン原産のボラに近い種類の移入魚です。関東の一部で養殖されています。「ひかりもの」ですが透明感のあるサヨリやキスに似た「白身」系の身で大変味の良い魚だそうです。過去には放流が行われ繁殖定着もしています。
>国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/50220.html
  
【追加】霞ヶ浦等では養殖から逃げ出したものが「特定外来種」にも指定され問題となっている「アメリカナマズ」は岐阜県では「河ふぐ」として生産が行われます。
 ナマズ同様に利用できる魚ですがフライが特に合うとされ管理生産されたものは刺身も可能とされます。
飛騨市公式観光ガイド 飛騨の旅 河ふぐ料理コース 〜Yu Me ハウス〜
http://www.hida-kankou.jp/gourmet/1000000030/
     
 世界三大珍味キャビア」で知られる「チョウザメ」も近年全国で養殖が試みられています。
 日本にも古来には自然に存在していたらしいのですが絶滅したそうです。チョウザメとされるのはチョウザメ科のベルーガ、カルーガ等数種類の総称になります。
 キャビアは勿論ですが肉も品種によりますが白身で脂が乗り癖が無く歯ごたえもよいので刺身やマリネ、塩焼き、天ぷら唐揚げや中華や洋風の多くの調理法でも賞味できます。骨や鰭も揚げて食べることも出来、よいスープもとれます。
 ただ現実にはキャビアは輸入物よりも高く、肉も相当コストの高いものになります。
  
 「サワガニ」も養殖が行われています。「がに漬け」もありますが活け物を唐揚げにして日本料理で用いるのが多いでしょう。比較的高価です。
 「スジエビ」「テナガエビ」も水田養殖等が少しあります。東南アジア原産の「オニテナガエビ」の養殖も試みられています。
 「タニシ」も養殖される場合もあるそうです。
 味噌汁や蒸し蟹が大変美味しい「藻屑蟹・モクズガニ」は「上海ガニ」と同種ですが共食いをするため養殖は困難なようです。放流事業が行われています。
         
 「スッポン・鼈」も養殖が盛んです。見た目と違い上品で深い味わい、良い物はそれ程癖もありません。
 調理の手間が掛かるので店では比較的高価ですが歩留まりもよく大変美味しい食材です。
 鍋や雑炊は勿論ですが煮付けや唐揚げも美味しく、中華や洋風の料理にもよく合います。食べずぎらいは勿体無いです。
  
 河豚や真鯛、平目等の「海水魚」を「淡水(正確には異なる)」で育てる養殖技術も開発されています。
好適環境水 森のマグロプロジェクト
http://kakenet.net/nikki/index.html
     
>「淡水養殖と川魚料理の未来」に続く
http://d.hatena.ne.jp/settu-jp/20130302/1362155229

*1:追記。