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リテラシーと理解について考える

TPP参加国・交渉国の医療制度を調べてみる

 環太平洋パートナーシップ(TPP)について日本が加盟した場合には現在の日本の医療保険制度に打撃を与える可能性があるとの指摘があります。
>外務省 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉 平成23年11月
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/index.html
      
国民皆保険制度の話 てんかん(癲癇)と生きる
 http://ameblo.jp/moonsun3/entry-11071070524.html
>TPP締結による国民皆保険制度の崩壊について 発声練習
 http://d.hatena.ne.jp/next49/20111112/p1
混合診療のメリットとデメリット NATROMの日記   
 http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20111115 
         
 アメリカの医療制度については多く語られますがその他の国の医療制度についての情報が少ないように感じます。
 日本と同じくこの協定の影響を受けるだろう各国の医療制度についてのメモです。
 ヨーロッパとの比較は幾らかは見かけますが参加予定国の制度との比較やそれらの国の実態について書かれたものを見かけません。
 語学もできず制度についても詳しくはないのでインターネットの検索で調べた範囲での情報を並べてみます。
 素人ですから正確さには自信が有りませんので詳しい方の御指摘や正しい情報の提供が頂けましたらとても有難いです。
 出来れば根拠の示された資料や公的な団体等の調査が欲しいです。
           
 「シンガポール
シンガポールの医療システム 医療保険事情

シンガポール人や永住者はメディセーブとメディシールドという政府の制度に加入することができます。簡単に説明しますとメディセーブは年金の一部分で、いざというときにはこれで医療費を払うことができます。使わなければそのまま年金として積み立てされます。一方メディシールドは任意加入で、保険料をはらうことで、入院時にはその費用が一部保険でまかなわれます。日本の健康保険に似てはいますが、任意加入であること、風邪で病院にかかるような外来治療には適応されない(癌や腎不全といった特殊な疾患のみ適応される。)こと、免責額があること、保障額に上限があることなどがことなり、どちらかというといわゆる傷害保険(入院保険)に近いです。
     
これだけでは医療の保障は十分ではないので、多くのシンガポール人は任意の医療保険に加入するようです。ちなみにシンガポールで加入できる保険には、通常の外来通院をカバーする保険はなく、医療保険といえば入院保険です。シンガポール人は通常の外来医療費は実費負担となっています。

 http://www.singaweb.net/medical/system/#%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%8C%BB%E7%99%82%E5%88%B6%E5%BA%A6       
シンガポールの医療制度

入院が必要になる場合は、CPFを使います。しかし労働者が全員、入院費用全額を賄うのに十分な積立金を持っているわけではありません。低所得者は積立額が小さく、大病をして入院したら、積立金は忽ちの内に枯渇してしまいます。そこでこれをカバーするために医療保健制度を設けています。Medishieldと呼ばれる保健で、これも強制です。入院したらまずは、自分の積立金を使って、それで賄いきれない場合には保険を利用することになります。この2つの制度の組み合わせで入院費を賄っています。

 低所得者が入院した時には費用の70%まで国が補助金を出しています。また外来診療では1ヶ月の家族収入が7万円以下の低所得者には無料診療を提供しています。貧困者に対するセイフティ・ネットはいろいろな形で設けられていて、最低必要な医療は保障されています。

 http://www.jas.org.sg/magazine/yomimono/blog/medical/medi0706.htm
 年金積み立て制度の一部として、入院の伴うある程度の重い病気にのみ使えるらしいメディセーブと、それでは足りない人向けにメディシールドという医療保険制度があり場合によっては7割を政府が負担する様です。
 制度への加入は任意なのか強制なのかはよくわかりません。
 軽症の場合は自費乃至は個人の加盟する民間の保険で賄われるようです。
 概して医療水準は高いようですが医療費は市場原理で、安価な公立病院は数が少なくアクセスは簡単とは言えないようです。
       
 「ニュージーランド
ニュージーランドの医療事情
 http://www.ryonz.com/Living-Doctor.htm
 幾つかわからない部分はありますが基本的には比較的安価(13〜25%)の負担(地域によっては無料も?)又は児童などは基本的に無料らしい公立病院が有りますが数が少なく不便で、専門の病院はかかりつけ医の紹介が必要で待たされる場合も多いので、アクセスはしやすい高価な私立病院とが並立し、私立病院にかかる為の個人が加盟する民間の医療保険も盛んなようです。
 病気ではなく事故だと医療は無料の様です。
        
 「チリ」
>チリの医療事情 かわうそチリ日記

チリの医療制度は、政府管掌保険(FONASA)と民間の保険(ISAPLE)に分けられ基本的に金持ちは民間の保険に入るのが主流となっている。FONASAは所得の少ない人は無料で診療を受けられるが、政府の病院しか受けられないので順番待ちがひどく長く医療のレベルも低い。一方民間の病院は値段は高いが順番待ちもなく医療レベルも高い。ISAPLEに入っていると民間の病院の診療が数割負担で受けられるのでお金に余裕のある人は皆ISAPLEを選ぶのだ。

 http://izukawauso.blog113.fc2.com/blog-entry-402.html
 医療水準は高くはない無料の公立病院が少数あり民間病院は水準も高くアクセスが早いが高額との事。
    
 「ブルネイ
 石油資源に恵まれた国で税金(所得税?)がなく、医療と教育が(殆ど?)無料との情報は見かけますが適切なソースは見つかりませんでした。
 小さな国ですが医療水準も高いと聞きますがよくわかりません。 
 只、殆ど言論の自由もないらしい専制国家ですが…。
         
 「アメリカ」
 アメリカはご存知の通りオバマ大統領が国民皆保険の導入を目指したものの挫折しました。
 アメリカ民主党の一部は現在でも公的医療保険の導入を目指している筈です。
 現在公的な医療保険は障害者や高齢者向けの物と貧困者向けの物が存在しますが一般向けには民間の健康保険しかなく、それは高額で尚且つ不便なものが多いそうです。
 医療費の高さは大きな社会問題でも有るようです。ですが単純に皆保険を否定するとは考えにくいでしょう。
    
 「オーストラリア」
>オーストラリアの公的医療保障制度「メディケア」
 http://221.186.83.153/f/repo/561_a0807/a0807.aspx
 オーストラリアの医療制度は税金を原資とした国民皆保険制度のメディケアです。
 多くの外来と入院での医療が無料で行われます。一部の公的医療と私立病院は有料です。
 公立病院の場合、予算不足でベッド数が足らず入院までの待機期間が長いことが問題とされているようです。
 TPP交渉においてこの制度をアメリカが問題視しているとの情報も見ますが、調べた範囲ではそれが正確な情報かはわかりません。
 それが事実とすれば大きな反対運動が存在するはずです。
     
 「ペルー」
>外務省 世界の医療事情
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/cs_ame/peru.html
 こちらによるとペルーでは極僅かしかない公立病院にだけかかれる比較的安価な公的な医療保険と、高額ですが多くある私立病院にかかるための民間医療保険が並立していますが、現実には公的医療保険はあまり機能していないようです。
        
 「ベトナム
ベトナムの健康保険制度 ガイドには載っていないベトナム

ベトナムでは2005年に健康保険制度が改正され、6歳以下の子供が公営病院で診察を受ける場合は無料ということになりました。

また大人の健康保険は、公務員は全加入、農村や地域については、自分自身で保険料金を払う制度であり、約3分の1が入っているそうです。現在、保険に入っている一般国民は約3分の1程と言われています。

 http://betonamugaido.info/004/cat14/
ベトナム国における保健医療の現状
 http://www.ncgm.go.jp/kyokuhp/worldhealth/2011pdf/vietnam201101.pdf(PDFです注意)
 医療一般のレベルはまだまだ低く医療関係者も足らず地域格差も有ります。
 公的保険の使える混雑する安価な公立病院と使えないらしい高価な私立病院があります。
       
 「マレーシア」
 マレーシアは公的医療保険はなく少数の混雑する少数の公立病院と高額な私立病院があり、私立病院は民間の医療保険が使えるようです。
 医療レベルは低くは無いようです。貧困者向けの社会保険制度は有るようです。
>マレーシアの医療事情
 http://www.hcpg.jp/medicalinfo/south-asia/862.html
      
 「カナダ」
>改革迫られるカナダの医療制度 カナダ社会考
 http://canadashakaiko.canadajournal.whitesnow.jp/?eid=75
 カナダは税金で運営される国民皆保険制度(メディケア)のようです。通常の医療費はほぼ無料らしい。
 ただ、予算不足で厳しい状態にあるようです。
     
 「メキシコ」
>メキシコの医学教育と医療 板東 浩(日本プライマリ・ケア学会広報委員会)2004年7月19日 週刊医学界新聞

日本と異なり,メキシコの医療制度は二重構造だ。患者サイドでは,保険診療自由診療が混在している。公立病院の医療費は無料だが,予算の関係で満足できる診療は望めない。

http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2004dir/n2593dir/n2593_07.htm
   
>市場調査レポート メキシコ:医療制度と薬剤規制概要 2011年07月

 メキシコでは皆保険制度はまだ確立されていませんが、同国政府は2012年にも達成可能だと述べています。

 http://www.gii.co.jp/report/dc206511-mexico-healthcare-system-drug-regulatory-overview.html
    
 その他
>73.医療制度の国際比較(1) 医療費 独り言
 http://www.geocities.jp/yamamrhr/ProIKE0911-73.html
  
 調べた範囲では公的な医療制度としては税金等の公金を使いある程度は皆保険的な制度が有り、現実的な医療へのアクセスが比較的に容易に見えるのはブルネイ?、カナダ、オーストラリア。オーストラリア、カナダは予算不足が問題のようです。
 保険制度は有るものの機能していないベトナム。年金等と組み合わせた独自の制度のシンガポール
 税金等の公金で運営される一部の公立病院だけを国民や永住権を持つ人が使える制度を持つのがニュージーランド、マレーシア、チリ、ペルー、メキシコ。しかしこれらの国は何れも公立病院は数も足らず質も低いようで、ある程度の資力のある多くの人達は民間の医療保険と私立病院を使うようです。
 そして一般には公的な医療制度や医療保険の役割の低いアメリカ。
   
 ほとんどの国では公的保険・公的医療は限界があり、民間の医療保険も併用されているようです。
 日本ほど高度な医療も保険で賄われていてアクセスが容易な国は殆どありません。
 逆に公立病院では無料で治療を受けられる国も有ります。  
 改善の余地は有るでしょうが全体的には日本の現在の皆保険制度は比較的にコストパフォーマンスのよい制度なのかとは思います。
>医療費と平均寿命(OECD諸国)2007 社会実情データ図録
 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1640.html
   
 しかしこれだけの様々な医療制度を持つ国々を「アメリカンスタンダード」に出来るのかはよくわかりません。
 スムーズにブルネイ?、カナダ、オーストラリア、シンガポールが極端な方式であるアメリカに合わせられるとは思えない気もします。
 公約等で皆保険を目指しているメキシコや「共産国ベトナムはどうなのでしょう。
 独自の医療保険制度を守ろうとするなら日本の側に立ちそうな国も少なくは無いように見えます。
 小国ギリシャEUからの脱退を唱えることが出来たように条約はその国が批准しない場合には効力を持ちません。
 韓国がアメリカとのFTA(韓米自由貿易協定)で揉めているのも報道されています。
 もし推進するにしても適切な交渉が出来るかを国民自身が監視すべきでしょう。
     
 色々なところで話題になり問題があるとの意見も多いTPPですが、一部において何の根拠もない情報に基づいて議論が行われているようにも見えます。
 このままTPPを推進すべきなのか、日本の社会や未来にどのような影響があるのかは良くわかりません。
 混合診療についての憂慮等は妥当なものも有りますが根拠のよくわからない批判も見られるようにも感じます。
 あまりに高額なアメリカの医療制度の問題だけで恐怖を煽るような情報ばかりが目立ちます。
 前にも「カリフォルニア米のリアル」を書きましたが、同じ様に基本的な情報が足りないような気もします。
 http://d.hatena.ne.jp/settu-jp/20110311/1299775446
          
 「政府がまともな情報提供をしない」と言われる方もいますが怪しげな情報ばかりが蔓延し根拠に基づくまともな情報が埋没しているということは無いのでしょうか。
 「アメリカの陰謀」説に踊らされてはいないのでしょうか。
 経済についてでも外交交渉はある意味で「戦争」です。正しい情報に基づく適切な判断を行うことが「勝利」に繋がります。
 勿論この記事が全て誤解や勘違いであるとの可能性は有ります。
 根拠に基づく情報や専門的に詳しい方が居られましたらご教示お願いします。