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リテラシーと理解について考える

入門書入門

 「入門書は難しい」と思う。
         
 入門書といっても、例えば何らかの教育機関の「教科書」だと読み手はその事柄についてその教育機関に求められる目的、つまり自動車の教習所だと「免許を取る」という終点が明らかで、その為にプロセスを踏んで誰かの指導の下、「正しいかたち」を身につける為の段階である事が共有されている訳です。
      
 それに対し、書店などの店頭で売られる「入門書」は多用な役割があります。
 そのジャンルにもよるのですが
1)興味も無く本当にその事を知らない人が「今」とりあえず必要で「その部分」だけを何とかすればよいだけの「やり方」。
2)本格的に学ぶために全体像を示しその為の基礎の部分をきっちり順序だてて正確に身につけるさせる。
3)大枠での基礎教養が有る人に要点を示し、先に向かう道標にもなる。
4)知らない人・わかっていない人に初歩的なことを「理解」出来るよう丁寧に噛み砕く。
5)兎に角「網羅的」に資料・情報を並べ経験をつみ自分で考える力を身につけさせる。
6)ちゃんと「指導者」に付いて学ばなければ理解できない事の下準備・参考書としての役割。
7) 技術的に確立していて場合によってはその場で検証も可能で「理解」を求めず手順を覚える物。

 これらの別個で場合によっては対立・矛盾する内容を「入門書」という同じ枠組みで分類されます。 
 現実には想定されている読者も役割も目標とする事柄も大きく違う物が一纏めにされている概念です。
        
 例えば1)・7)は「入門書」は多くの場合1冊しか読まない可能性がありますが、2)・3)・5)・6)の「入門書」はおそらく他の「入門書」や次の段階の資料やより高度な指導・学習がある物としてのある意味「補完的」な役割を果たせば充分でもあります。
 1)・7)の場合だと「結論」だけ示せばよいので読者もそれ以上に興味も無く必要も無く簡単に「答え」だけ教えれば良く、現実に「我々」の日常の中での「入門書」はこの役割が主でしょう。
        
 2)・4)・6)は興味や学習意欲を持たせ「その先」に向かわせる役割も求められます。
 3)の場合だと「当たり前」の事はわざわざ説明せず特別・特有の概念や用語・手法の説明や解説が突然始まります。
 5)の場合だと「答え」を示すよりも自分で考えたり経験を積ませる事を目的があるのでしょうか。
   
 根本的にジャンル毎に「入門」のあり方も違い、個人毎に素養も学習スタイルも目的も違います。
         
 「入門書」を求める人にも明確に目的が有る場合と(当然知らない物だから)自分が何を目的に「入門書」を求めるのか自覚が無い場合も有ります。複数の目的を持つ人もいれば途中で目的が変わる場合も有ります。
 読者も単独の役割のみを求めているとは限りません。「こうすればわかる(又は出来る)」という唯一の方法がない事柄も多くありますし途中で目的が変わる(より深く学びたい又は面倒だから掻い摘んで)事もあります。
 特定の目的のためほんの数ページだけで事が済み、それ以外は読まれもしない「入門書」も多く有ります。
 逆に隅から隅まで何度も読まれ人生を変え世界を広げる「入門書」も有るでしょう。
 最低限の「常識」すらおぼつかない人や、本当の基礎の部分を身に付けたい人も、基本は出来ているが専門性についての入り口としたい人も「入門」という枠組みで纏められる事も多く自分に必要な「入門書」であるかはそれぞれです。
 成長のための踏み台なのか、間違わないための道標なのか、「わからない」を減らすための道具なのか目的も様々です。
      
 書き手も「簡単なマニュアル」にしたいか「敷居は低いが奥の深さも知らせたい」等といった意図を持つ事もあります。
 「商品」としても単独の目的の消費者のみに向けて示すよりも複数の目的にこたえられる「入門書」の方が市場が広いとの判断もあるかもしれません。客にしても「入門書」ですから「何処までわかりたい」かが最初からわかっているとは限らないので複数の役割に対応出来る物の方が有り難い場合もあります。
 個人の認識と目的の違いで単独の役割の「入門書」だとミスマッチの可能性も有ります。
 ジャンルによっては間口も広く方向性も多様でどの部分の「入門書」であるかも違います。
            
 複数の役割の「入門書」は分厚く価格も高くなる場合も有りますし薄く安くすればひとつひとつの役割の内容が薄くなりがちです。情報を詰め込むと難しくなるか読み難くなります。
 「入門書」ですから「わかりやすい・手に取りやすい」をとるか「情報量が多い」をとるかは簡単ではありません。
      
 具体的な事柄についての「入門書」だと比較的に役割がはっきりとしていますが抽象的な事柄だと同じ「入門書」でも意味も変わります。場合によっては具体と抽象の両方に跨るジャンルも存在しますし、関わり方でも変わります。
 同じ「入門書」でも役割は異なるものが含まれているのは寧ろ当然で本来は一括りで考えるのは難しいのではないでしょうか。
 ある「入門書」が「内容の間違い」を除けば「不完全」なのは仕方が無い場合も多いようにも考えられます。       
      
 入門者も「何も知らない人」も「勘違い・誤解している人」も「素養のある人」もいるので書きようも様々でしょう。
 直感的な人間の認知と異なる体系を持つジャンルもあります。外から見る物とは違う論理や文脈を持つ事柄も多くあります。
 「誰にでもわかりやすい」と「正確」の両立も簡単ではありません。共有の前提を持つとは限りません。
 「独学」が得意の人もいますが全ての人に「これだけ」で済む「入門書」が存在する事は殆ど無いでしょう。
 逆に要点だけ示し、そこから「自分で考える」事を薦める「入門書」の場合は多少不親切な書きようの方が正しい事もあります。
        
 1)・7)のような比較的狭い範囲の具体的な事柄・技術ではなく「考え方」や「構造」を理解させたり人間個人の感覚・感情的な部分や文化的な枠組みと異なる認知を必要とする体系を身につけるための「入門書」も存在します。「一般的」に思われている「それ」が現実の「それ」と実際には大きく異なる前提があり、多くの人には直感で理解しにくい体系を持つ事も多くあります。
 「頭の切り替え」を必要とする「入門書」には「レトリック」を必要とします。
               
 勿論「商品」ですから何らかの「売る」仕掛けや「読ませる」レトリックが必要な場合も有ります。
 何らかの主義や主張に基づいた「入門書」もあり複合的な目的のための「入門書」も考えられます。書き手の「意図」が含まれる「入門書」が有るのも当然でしょう。
 名のある書き手の書く「入門書」の場合は読者との「お約束・前提」や「サービス」が含まれるものも有り、「一見さん」には理解が困難な場合も有ります。
 「正しい」だけではなく「楽しい」を求めて読む「入門書」も有ります。
 まず「読ませる」必要のある役割のある「入門書」もあるでしょう。
                       
 ある種の「入門書」を「目的に合わない」「記述が少ない・浅い」「この部分への言及が無い」「詰め込み過ぎ」「期待していた事が書いていない」「当たり前のことしか書いていない」「難しすぎる」「安易だ」「特定の読者にしか向いていない」「誰を向いて書いているのかわからない」「読者に媚びている」「読者を置き去りにしている」と批評するのは簡単ですが「入門書」はそれ一冊のみで語られる物だけではなくその他の「入門書」「学習手段」の存在、状況や役割を含めて考えないといけないようにも考えます。
 誰かに必要があっても自分が既に知っている内容は不要に感じますし、自分の意見と異なる場合は(根拠は兎も角)「いらない」と感じる内容もあり、優先順位の違いが不満に感じる部分もあります。
 自分には不要でも誰かには必要な物も有るでしょうし、自分には新たな発見でも多く人にはありきたりの話なのかもしれません。
      
 特に「自分」としての批判ならまだしも、自分に都合の良い「読者・初心者」を想定し「彼らにはそれではわからない・理解されない(だろう)」とするのは詭弁的な「混ぜ返し」でしかありません。
 「自分は反論しないが」「こんな人がいるかも」とすれば何とでもいえます。
 完璧でなければ幾らでも批判が可能で、完成度が高いと「遊びが無い」「反感を買う」とでも言い返せます。不毛です。

 基本的には内容の具体的な間違いや問題点に根拠に基づく批判をしないのだと「感想文」の意味での「好き嫌い」の域を出ません。
 「入門書」とされる物の幾つかはその個人個人に合うか合わないかの部分も多く評価も批判も本当は中々難しい筈です。
 自分には意味の無いその「入門書」を誰かが必要としているのかもしれません。「完璧な入門書」が存在する前提の批判は簡単です。
    
 つまり「入門書」といわれる枠組みでも求められる役割は多様だし、想定読者も色々でそこから得られる物も違い、行き先も異なり簡単な「正解」の無いものなのだから「自分には役に立った・立たなかった」や「間違い」や「理解しにくい」は可能だろうが、独自の目標設定をしてそれには「足りない」とするのは幾らか雑ではないかと考えるわけです。
 纏まりが無いかな?。
(追記、「自分はこう書いて欲しかった」には「自分で書け」で終わるのではないかな)
    
 ……とはいえ「歴史」を筆頭に「社会・政治」だけではなく「栄養・健康」や「医学」等自然科学の物も含め酷い「入門書」が多いのも事実です。少なくとも「入門書」で「思いつき」や「間違い」「トンデモ」を広めるのは止めて欲しいな……。