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リテラシーと理解について考える

最近読んだファンタジー幻想小説から(2017)

 今年は食べ物記事ばかりなので何か書こうかと考えましたが、ネタも無いのでこの辺で。
      
 まず欧米物から。 
 最新作ではありませんが、英語圏では評価の高いものを。
        
 『チャリオンの影 (創元推理文庫) ロイス・マクマスター・ビジョルド

チャリオンの影 上 (創元推理文庫)

チャリオンの影 上 (創元推理文庫)

 『影の棲む城 (創元推理文庫) ロイス・マクマスター・ビジョルド
影の棲む城〈上〉 (創元推理文庫)

影の棲む城〈上〉 (創元推理文庫)

 この2作はいずれも上下巻ものです。
 「ヴォルコシガン・サガ」(シリーズ)でSF作家としても知られるビジョルド異世界ファンタジー
 レコンキスタ期のイベリア半島をモデルにした宮廷魔法ファンタジー
 いずれも「大人」の主人公の苦悩と闘いを描いた作品です。
 「呪い」や「神々」が存在する世界で運命と対峙し、懸命に生きる人々が描かれます。
 人間ドラマと魔法の設定がうまく組み合わされた優れた作品です。「五神教」の設定が良くできています。
 「影の棲む城」はヒューゴー、ネビュラ、ローカスの三賞を受賞しました。ゲーム的ファンタジーと一線を画した「大人の小説」として書かれているのも特徴です。
    
 続いては『エルフ皇帝の後継者(創元推理文庫) キャサリン・アディスン』
エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫)

エルフ皇帝の後継者〈上〉 (創元推理文庫)

 思いがけず帝位を継ぐ事になった「混血」の第四皇子。
 「スチームパンク」的な世界の亜人の帝国の宮廷陰謀劇。
 少年皇帝の成長を描きます。
 それほどドラマチックでもなく活劇なども無く、比較的淡々と話がすすみますが読み心地がよい作品です。
 こちらも上下巻もの、ローカス賞受賞。
       
 『ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル スザンナ クラーク』
ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルI

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレルI

 上の2作はアメリカの作品で異世界ものですがこれはイギリスの歴史ファンタジー
 19世紀のイギリスで「英国魔術」を復興させようとする二人の男、呪われた人々と奇妙な魔物。
 英国風ユーモアと奇想、奇人。後代に書かれた歴史ものとしての記述の仕掛け、ちりばめられた謎が独得の作品世界を作り出します。
 イギリス現代ファンタジーの傑作。世界幻想文学大賞ヒューゴー賞ローカス賞受賞。
 日本人の読者は好みがわかれるかもしれません。全三巻。

 大雑把な印象としては、英語圏のファンタジー幻想小説でもアメリカの物は比較的「論理的」で作品内でのルールがはっきりしていて、起承転結がわかりやすく、いわゆる「エンタメ」色が強く、イギリス系の物は他の作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズニール・ゲイマンなどをみても「魔法」を得体のしれないものとして書き、多くのなぞが残る終わり方をする作品が多いような気がします。
 アメリカの「ベルガリアード物語」やその続編「マロリオン物語」だと日本のライトノベルに近いと感じます。
 いくらか一般化しすぎの感想ですが、ヒロイックファンタジーやヒーローもののアメリカンコミックのアメリカと神話伝説や奇譚のイギリスといった分類も出来るかもしれません。
     
 日本の作品もいくつか。こちらは新作中心。
 
 第二回創元ファンタジイ新人賞受賞作『宝石鳥 鴇澤 亜妃子』

宝石鳥

宝石鳥

 妻を喪った音楽家、婚約者を探す女性、百年前の画家の見た不思議、仮面の女と島の儀式・祭礼。 
 様々な運命の糸が一つに繋がり壮大な神秘を織り上げる。
 音楽、舞踊、絵画、神話、死と再生。
 ジャワ島辺りをイメージした伝説の島を主な舞台に絢爛たる描写で幻想的な物語を描きます。
 少しこなれていない印象もありますが、新たな地平を開くかもしれない骨太な作品です。
 
 こちらは大ベテラン「幻想小説の女王」『U 皆川博子
U

U

 タイトルは「うー」と読みます。 
 17世紀のオスマン帝国第一次世界大戦期のドイツ帝国
 奴隷兵イェニチェリをつくり出す強制改宗デウシルメ、商船を狙い通商破壊を行う潜水艦Uボート
 二つの時代を繋げる謎の男たち。 
 歴史の闇を描きだす華麗な筆致。愛憎、暴力、美しい絶望。
 いまだ衰えを知らない「文化功労者」の書く圧倒的な物語。いつもの「皆川文学」は健在です。
    
 「ライトノベル」からも一作。
 最近に「読んだ」わけではなく、数年前から読んでいて「小説家になろう」で今年完結した『本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません 香月美夜 いわゆる「テンプレート」ものの「異世界転生」「チート(反則的な知識や能力を持つ)」作品ですが、細かな設定とバランスの良さ、きちんとした文章、魅力的なキャラクターで読ませます。 
 大長編で書籍ではまだしばらく完結はしませんが、女性や大人の男性でも読め、児童にも勧められるしっかりとした作品です。
 「このライトノベルがすごい!2018」単行本・ノベルス部門第一位。
 全20巻位まで行きそうです。
 
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