はてなビックリマーク

リテラシーと理解について考える

猟銃の威力と用途

  現在、日本では狩猟は一部の人の特殊な営みと思われる事も多く、特に都市圏の住人には縁遠いといえるかも知れません。 
 周囲で狩猟を行う知り合いは全く居ないという人も少なくは無いでしょう。
 日本では銃の所持には大きな規制が掛けられ、「平和」な反面妥当な知識を得るのも難しいかとも考えます。
 「猟銃」とは何か、どれぐらいの威力がありどのように用いられるか、ご存じない人も多いでしょう。
 これから狩猟を始めようとする方はどなたかに聞かれたり資料を自ら集めたりして知識を得られるのでしょうが基本的に興味の無い人には知識を得るハードルの高いものです。
 「知って損」な訳でも無いでしょうから、批判目的であっても出来る限り確からしい知識・情報を持つのは悪い事ではないでしょう。
 「狩猟」の善し悪しについては論じません。
          
 狩猟をするつもりの無い方、基本的に興味の無い方向けの猟銃についての簡単な説明を試みてみましょう。
 個人的には狩猟には詳しくない軍警察用拳銃及び自動小銃方面好きの元三流銃器趣味者ですが、寧ろ初心者として調べながら書きます。
                      
 日本では「猟銃」として認められている銃は基本的に両手で持ち「銃床」を肩に当てて保持する「長物」とも呼ばれる「ショルダーウェポン」又は「ロングガン」のみです。
 時には「けんじゅう」といわれる方も居ますが「拳銃」「ピストル」は基本的には「手」のみで保持をする銃になります。日本では民間人は標的射撃のみでしか所持が認められていません。(拳銃はハンドウェポン又はハンドガン)
 狩猟用の銃器は形状・機能から分けられ「空気銃」「散弾銃」「ライフル銃」の三種類があります*1。弓で矢を撃つ「ボウガン(商標)」「クロスボウ」は日本では狩猟には用いる事が出来ません。
    
 猟銃を狩猟を用いるのには資格として狩猟免許を持ち、都道府県に狩猟者登録を行わなければ為りません。
>狩猟者入門ガイド 北海道環境生活部自然環境課
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/sizenhome/shuryo.htm
>狩猟制度の概要 環境省
http://www.env.go.jp/nature/choju/hunt/hunt2.html
 他に狩猟免許を持つ人が有害鳥獣駆除の要請を受け「駆除」を行う事もあります。
          
 猟銃の所持は狩猟免許・狩猟者登録とは別に地方自治体の公安員会から許可を得て銃刀法の規定に基づき警察に申請し、許可を得て、厳密な管理を条件に認められます。
>猟銃・空気銃の所持許可手続き 警視庁
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/tetuzuki/gun/gun.htm
 狩猟についても獲ってもよい鳥獣が時期や場所、雄雌や獲り方も含めて決められています。

 ここでいう「有効射程」距離は狙って中(あ)てる事が出来、獲物を捕獲出来得る距離で、威力と命中精度での実用的な範囲についての意味で、殺傷可能な距離(流れ弾、外れた弾でも怪我をする)とは異なります。殺傷可能な威力が無くなりつつも弾が届く「最大到達距離」も別の概念です。
    
 先ずは「空気銃」からです。空気銃は「エアガン」ともいわれますが、これは通常の玩具店などでも売られる「エアー"ソフト”ガン」とは異なるものです。
 「エアーソフトガン」は通常「実銃」模型として作られた通常6mmのプラスチック製の弾を飛ばす比較的に威力の弱い「遊戯銃・玩具」になります。(1J=1ジュール以下)
>モデルガン、エアーソフトガンについて 警視庁
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/kenjyuha/modelgun.htm
   
 空気銃はそれとは異なり主に金属製の弾丸を不燃性の高圧の気体で発射する比較的威力のある銃の事を指します。
 高圧の炭酸ガス等で発射する「ガス銃」、現代主流の高圧の圧縮空気を用いる新しい「プリチャージ式」、ピストンで空気をポンプに圧縮しバルブの開放で発射する「ポンプ式」、スプリングでピストンを急速に圧縮してその圧力で発射する「スプリング式」といったメカニズムがあります。
 空気銃は気体の圧力や弾の直径(口径)や重さ・形状で「威力」が変わります。
 マルチポンプ式空気銃は気圧を調節すれば目的にあわせ威力を変える事が出来る物も有りますが、一般的には正確な射撃を求める場合発射する気圧を変えると弾の運動の要素が変わり中るポイントが変わるので一定の気圧での射撃が好まれます。
 プリチャージ式では最大で300気圧程度の物まで有るようですが通常200気圧程の物が用いられるそうです。
     
 空気銃の弾は口径(弾の直径サイズ)としては一般的なものとしては4.5mm(.177)、5mm(.20)、5.5mm(.22)、6.35mm(.25)の各サイズがあり、日本では4.5mmと5.5mmがよく使われます。射撃競技用は4.5mmが殆どです。日本では8mm以上の空気銃は所持できません。()内はインチ・inch、1inchは2.54cm。
 狩猟用の空気銃の威力はエアソフトガンの5倍以上、15倍から50倍のものが通常です。(競技用は数倍*2程度)
 銃身には弾を回転させ安定させる「溝」、旋条(ライフリング、ライフル)が刻まれ、鉛又は銅の主として「鼓型」*3の弾が用いられます。多く用いられる先の丸い速度の速いラウンドノーズ弾、先の窪んだ打撃力の強いホローポイント弾、先が平らで紙の的にきれいに穴のあくワッズカッター弾、先のとがったポインテッド弾が有ります。
 大口径のものは近距離では破壊力はありますが、空気抵抗が強く遠射の場合は弾道が落ち易いそうです。
  
 貫通力は強力な物だと30m先の2cmの木の板を簡単に撃ち抜く程だそうです。
 「威力」についても獲物に対して過大な威力があると、必要以上に損傷が激しくなり食用に適さなくなったり剥製にする事も不可能になります。「オーバーキル」は狩猟においても普通それ程格好の良い物とはされません。
 逆に怪我をさせ捕獲できない場合は「半矢」ともいわれ、苦しめて殺す「半殺し」にする事で残酷になり、ハンターとしては格好が悪いとされます。基本的には確実に捕獲しつつ過度な破壊は好まれません。
 「仕留め」損ねると後で「とどめ」を刺す必要があります。クマ猟の場合は「手負い」は危険なので「とどめ」は義務とされます。
   
 獲物については通常空気銃での狩猟は鳥が殆どです。比較的体が軽量で骨なども柔らかい鳥類は狩猟が許可されている鴨やカラス位の物については空気銃でも充分に捕獲が可能です。 
 獣類についても威力の低い旧式の空気銃であってもウサギは「銃撃に弱い」そうなので比較的簡単に捕獲でき、キツネでも頭や胴体でも急所に打撃を加える事が出来れば充分に捕獲できるそうです。
 人体にも怪我を負わせるだけの威力はあり、目に当たれば失明します。逆に2〜3発程度で人を「殺す」のは困難だと思われます。
 海外ではイノシシ猟に使えるほどの空気銃もあるそうですが、日本には無いようです。*4
              
 新型の物では獲物にダメージをあたられえる殺傷可能な威力が有るのは150m〜200m迄のようですが、弾の最大飛距離は300m〜500m程は有るようです。
 有効射程距離については今まで空気銃の場合は30m〜50mとされて居ましたが新型の高性能な空気銃では50mでは1円玉に当てる精度を持ち、100m近い距離の獲物を狙う事も可能とされます。ものと腕によりますが通常30m〜80m程度です*5
 近年では精密な射撃の補助に用いられる光学照準器(スコープやドットサイト・レーザーーサイト)等の一般化で銃器の有効射程距離が延びた部分も有ります。
 比較的威力が弱く発射音が火薬を用いる装薬銃に比べ静かなので里山や田園地帯等で使うのに適しています。
    
 続いて「散弾銃」についてです。*6
 散弾銃は「ショットガン」ともいわれる「散弾」「ショットシェル」というタイプの火薬で弾を発射する実包(カートリッジ)を用いる銃の事を指します。
      
 「散弾」は現在通常は火薬の入った金属製の筒(リム)の先にプラスチック製のケースに入った多くは金属製の弾から為ります。
 火薬の燃焼・爆発で撃発し、ワッズといわれる栓を介して弾にエネルギーが伝えられ発射します。
 大きな威力がありますが火薬を用いる散弾銃やライフル銃等の装薬銃は射手にもそれだけの反動が襲います。
 ライフル銃に比べ質量の大きな投射物を撃つ散弾銃は特に厳しい衝撃があります。
                
 文字通りの「散弾」は基本的には小さな球形の金属製(鉛又は鉄や銅)の弾(ペレット)が複数、ケースの中に入ります。散弾のサイズで8〜9mmのシカ撃ち用のOOとOOO*7、BBという4.5mmの物から1号4mm〜12号1.3mm程度の物まで様々なペレットがケースに数発から百発以上詰められます。
 その他に「スラグ(スラッグ)弾」と呼ばれる「1発弾」がありますので本当は「散弾銃」という名称は正確では有りません。
 基本的には獲物の大きさや猟法に合わせてペレットやスラグを選択します。大きな獲物には大きな弾が用いられます。
       
 ペレットは発射された方向に拡がりながら飛ぶので動きの早い鳥などを狙うには有効です。威力は分散されますが、ざっと狙った的に対しても「面」として弾が捉えるので幾らか狙いが甘くとも「中てる事」が出来ます。
 弾や装弾(後述)によりますが狙える有効射程は50m程度、弾に威力の残る殺傷可能距離は100m程度、最大到達距離は500m程度とされます。
 ライフル銃の様に密閉された銃身内で発射エネルギーを直接受けるわけではなく、弾もジャイロ回転をせず安定的に直進しない丸弾なので発射後は空気抵抗と重力で急速にエネルギーを失います。一部の大粒の物や特に小さな粒を除けばペレット1発ずつの威力は空気銃の強力な物と大きく変わらないといえるかもしれません。
       
 散弾銃の銃身には多くの場合、銃口の部分に「チョーク」と呼ばれる0.2mm〜1mm「絞り」がつきます。漏斗の様にペレットの拡散を抑えます。
 散弾の拡がりを調節して目的の距離で最も効率をよくし、必要の範囲でペレットの有効射程を調節します。
 一般的には銃口部で1mm程度絞る遠距離用の「フル」、0.7mm〜0.8mm程度絞る中遠距離用の「インプルーブド モデファイド(インプモデ又は3/4)」、0.5mm絞る中近距離用「モデファイド(モデ又は1/2)」、近距離用の0.2mm絞る「インプルーブド シリンダー(インプシリンダー又は1/4)」、絞らない至近距離用「シリンダー(CYL)」、他に「スキート」は至近距離射撃競技「スキート」用で逆に0.7mm程度まで広げます。
 「チョーク」は銃身に加工された固定式のものと取り外せる交換式の物が有ります。
    
 散弾銃の銃身の長さ・銃身長は基本的には21inch、24inch、26inch、28inch、30inchのサイズがあります。
 基本的には長い銃身が遠射用になります。21inch・24inchの物は基本的にはスラグ弾用です。
     
 散弾銃の「口径」は銃身の内径でゲージ・GAUGE*8又は番(径)で表示されます。主要な物としては12GAUGE、16GAUGE、20GAUGE、28GAUGE、410GAUGEという番径がありますが現在日本では12GA・12番(18.5mm)、20GA・20番(15.8mm)、410GA・410番(10.4mm)の物が殆どです。
 散弾には番径ともう一つ、「装弾」ともいう薬室・薬莢長のサイズでの分類もあります。2.1/2inch、2.3/4inch、3inch、3.1/2inchが有り現在では3.1/2inch乃至は3inchの物が「マグナム・Magnum」と呼ばれる様です(もとは3inchがマグナムだった)。
 薬莢が長い物が基本的に火薬が多く威力の大きな物になります。同じ番径でも実包の薬室のサイズが違う場合大きなサイズの装弾は小さな装弾の薬室では危険です。
     
 散弾銃の場合は多くの銃で比較的簡単に銃身の交換が可能で「替銃身」が一般的です。長さやチョーク、装弾を目的によって変えるのはその銃によりますがある程度は可能です。
    
 そして散弾銃には強力な「砲弾型、筒型」の1発弾の「スラグ弾」があります。
 スラグ弾には2種類あり上の多くの(フルチョーク等強いチョークの銃を除く)「普通の銃身」で打てる「ライフルドスラグ」と専用の旋条(ライフリング)が日本の場合は銃身の半分まで刻まれた「ハーフライフリング」銃身を用いる「サボットスラグ(弾を包むカバー・サボットがライフリングにくい込み回転させる)」です(銃身全部にライフリングを施すとライフル銃になるので禁止)。
 ライフルドスラグでは狙った獲物に中るのは50m程度とされますがサボットスラグでは100m程度までが有効射程距離とされます。ライフルドスラグで殺傷可能距離が200m程度、サボットスラグでも300m迄。最大到達距離はライフルドスラグで700m迄サボットスラグで1000mとされています。
      
 殺傷能力はバラ弾の散弾では番径での威力差は少なく薬莢長・装弾の影響のほうが大きい様です。大型の弾はペレットの数が多くよく中りその代わりに反動が厳しくなるという違いのようです。体格や性別、目的によって番径・装弾は選びます。小粒のペレットでは小型の鳥類、中粒のペレットでは中型の鳥類や小型の獣、OOバックショット(「オーオー」又は「ダブルオー」及びOOOも)とも呼ばれる大粒(6粒〜12粒等)では近距離ではそれほど大きくないシカなど中型の獣類まで充分捕獲できるようです。中型以上のシカやイノシシでも近距離なら充分で少し離れていれば足止めに使いそれから止めを刺す事もあるそうです。ヒグマに襲われた場合にでも至近距離からの12GAの強装薬弾OOバックは充分効果があります。
 動く的の場合はバラ弾のほうが中て易いので50mまでのシカ狩りでは良く使われます。
 ペレットが全弾標的に中る程度の至近距離の場合はライフル銃を凌駕する破壊力がありますが離れると急速に威力が落ち、ペレットの一粒一粒はそれほど威力はありません。*9
     
 スラグ弾では発射エネルギーが集中するので装弾だけではなく番径も威力に反映されます。
 火薬の量と弾頭の重量が直接1発の弾頭に威力として伝達されるので大口径の銃は大きな破壊力を持ちます。
 小型のシカでは410GAも用いられ(特殊なサボットスラグの410GAではより強力な物も有る)、イノシシや本土のシカには20GAも用いられ、エゾシカや本土のツキノワグマにも12GAで充分で、大型のエゾシカやヒグマでも反動はきついようですが12GAのマグナム弾で捕獲が可能とされます。*10 *11
 散弾銃にはゴム弾等の非殺傷タイプの銃弾もありサルの駆除等には用いられるそうです。
       
 もっとも「強力」なのは「ライフル銃(又は単に「ライフル」とも)」です。
 日本の狩猟で認められるライフル銃というのは通常火薬の詰まった金属製の薬莢に金属製の弾頭がつき、銃身全てにライフリングが施された銃です。薬莢内での火薬の爆発で弾頭のみが飛翔します。
 軍用等でも使われる銃と基本的には同じ物です。空気銃は基本的に対人用には使われず散弾銃は警察で使われる事はありますが軍用では主流ではありません。 
 鉛や銅等の合金*12の流線型、砲弾型等の弾頭・弾をライフリングでジャイロ回転させながら高速で飛ばすライフル銃は強大な威力を持ちます。*13
 散弾銃のスラグ弾は基本的に昔の「火縄銃」と大きな差は無く、それこそ弓でもある程度「戦えます」が、この「ライフル銃」は、遥かに強力でそれらの武器では基本的には「戦えません」。
     
 日本の狩猟で認められるのは口径が6mmから10mmの物です、5.9mm以下の銃は狩猟では用いることが出来ず10.5mm以上のライフル銃は所持が認められません。*14
 
 ライフル銃での狩猟が認められるのはニホンジカエゾシカを含む)、イノシシ、ツキノワグマ、ヒグマのみです。(有害鳥獣駆除は認められる物もあるらしい)
 ちなみにニホンジカ(本州)のオスの成獣は50〜100kg程度、エゾシカのオスの成獣は100〜160kg(九州や離島のニホンジカはもっと小さい)、イノシシのオスの成獣は80〜180kg、ツキノワグマのオスの成獣は50〜150kg、ヒグマのオスの成獣は150〜300kgで特に大きな物は400kgにも為ります。これらのメスは半分から2/3程度の大きさです。
        
 ライフル銃の弾丸は覚えきれないほど沢山あります。口径も通常の市販の物でも4.5mm(.177)から12.7mm*15(.50)位までの間で10分の1mm単位で細かに分かれ、威力を生み出す弾丸の大きさ太さ重さと薬莢の長さ太さによる火薬の量や細かな形状でも多くの違いが有ります。それらは殆ど兼用は不可能な別々の弾です。
 用途や射手の体格や好み等によっても多様な弾が有り、その上毎年のように「新製品」の新しい弾が銃器メーカーや銃弾メーカーによって開発されています。
 軍用の銃弾の様に基本的に収斂し共通化する方向性にはありません。
 とはいえ人気が出て専用銃が売れるか自社以外のメーカーの銃にも採用されるなど「生き残る」のは多くありません。
 ライフル銃の銃弾は一部には「通称」といった物も有りますが基本的に商品名が多く表示や表現もばらばらです。インチ法とセンチ法が混在し、弾のサイズの表現も基準が無く、数字の中に省略した開発年等が含まれる物もある無原則さです。パターン化して覚えるのは難しいでしょう。*16
   
 ライフル銃の弾は大きく別けると弾頭と薬莢の太さの同じ「ストレートケース」(拳銃弾にも多い)と薬莢が弾頭より太い「ボトルネック」の二つのタイプがあります。一部を除くと弾頭に対しより大きな火薬量による強い圧力を掛けられるボトルネック形が殆どです。
 ライフル弾は一般的に拳銃の銃弾より大きな威力と精度を持ちます。拳銃弾で強力なことで知られる「.44マグナム」とパワー不足ともいわれる小口径のライフル弾「.223レミントン(5.56×45 NATO」は同程度のEnergyを持ちます。ライフル銃はライフル銃で別にライフル弾の強力な「マグナム弾・Magnum」があります。
 ライフル弾ではパンチ力のある比較的大口径の銃のほかに反動の軽い小口径高速弾が使われる事もあります。同じ火薬の量でも弾頭が軽いと反動が軽くなります。腕が良く急所に当てられるのなら肉にダメージの少ない小口径高速弾は有効です。
   
 ライフル銃や散弾銃の銃弾・カートリッジも寸法と威力の認められた「許容誤差」の範囲で商品ごとに弾頭の形状や火薬の量と質、材質の組み合わせ、加工等の違う多様な商品があり、個人がそれを組み合わせて自分用のカートリッジを作ることも可能(リロード)なので命中精度も威力も様々な物があります。大まかな目安であるという点はご理解下さい。
 銃身長も基本的には限度が有りますが撃発エネルギーを効率よく弾に伝えられるので有る程度は長い方が威力は増し射程は延びます。精度は距離によりますが銃身長によってそれ程は変わらないそうです。20inchから28inch程度までが普通でしょう。

 日本の狩猟で用いられる代表的な弾の威力と用途を書きます。勿論、あたり所にもよります。上から基本的に威力の弱い順です。
 射程は人間より動きが速く体が強靭な「動物」の距離です。ちなみに「人間相手」だと2倍位の射程距離になります*17
        
 .30 Carbine(カービン)は「.30 豊和」又は「7.62×33」ともいわれるストレートケースの比較的に威力の弱いライフル銃弾です。
 イノシシでも当たり所が良くないと半矢になります。有効射程も100m程度。
    
 .30-30 Winchester(ウインチェスター)はレバーアクションのWinchester M94で使われた19世紀の古い弾で(本州)ニホンジカやイノシシ程度まで使えます。近年これに代わり使われるのは殆ど同程度の威力で自動銃向きの遥かに安価な7.62×39 Russian(30-39)、アサルトライフルAK47」の弾で知られます。日本で見られる銃はスタームルガー ミニ30(mini14のバリエーション)等です。有効射程は100m程度。
 これらの弾はあまり命中精度が高く無いですが、取り回しが簡単で動いている獲物に連射がし易いと考えられているようです。
    
 .243 Winchester ともう少し威力のある.25-06 Remington(レミントン)や7mm-08 Remingtonは小口径高速弾で反動が軽く口径の割に威力があります。弾道もフラットで命中精度も高く有効射程も腕によりますが200m以上は有ります。(本州)ニホンジカやイノシシでも充分です。
   
 もう少し大きな口径では「西側」の軍用のNATO弾としても現在も使われ広く知られる
.308 Winchester(7.62×51 NATO*18 が有ります。これは比較的撃ちやすく威力があります。(本州)ニホンジカやイノシシは充分でツキノワグマでも問題は無いそうです。これも射程は200m以上。.270 Winchesterもほぼ同等です。
 北海道では300m以上も有るそうですが本州では基本的に100m程度の距離までが必要な射程とされているようです。.243 Win〜.308 Winで本州等では充分な射程があるのだそうです。
 
 銃の命中精度については特にライフル銃の場合は「MOA(Minutes of Angle)」*19で示すのが一般のようです。特に距離を示さないで「MOA」という場合は100ヤード(Yard)で約1インチの範囲に収まる命中精度の事を指します(通常3〜5発程度)。91.44mで2.54cmに為ります。現実には5%程度の誤差が認められます。
 これは全てのカートリッジで求められるのではなくメーカー推奨の精度と相性の良いカートリッジでも出来れば良い事になります。より長距離の場合は「○○ヤードで○MOA」という言い方です。
 高級ライフルだと1MOA以下の精度、有名メーカーの量産品で1.5MOA程度。2MOA以上になると中らない銃といわれます。*20
 いうまでもありませんがこれは狙いが正確な光学照準器(スコープ等)を使っての話です。
       
 この上が大物猟・ビッグゲームで世界の標準なカートリッジである
.30-06 Springfield(スプリングフィールド)になります。この弾は元々は第一次大戦・第二次大戦のアメリカの軍用ライフルカートリッジです。 .308 Winよりも1割以上は強力で射程も長く精度も優れます。(本州)ニホンジカやイノシシでは少し威力はありすぎですが、北海道では殆どのエゾシカやヒグマにも充分に対応出来ます。300mでも問題ありません。
 この位までが人が撃って苦痛にならない程度の威力と反動のライフル銃です。これ以上の威力だと軽い銃の場合沢山撃つと辛いそうです。
 重い銃だと反動を受けやすいのでマグナム弾でもそれほど問題が無いのですが、狩猟の場合携帯・移動に負担があるので個人の体力や嗜好・目的で選択します。2.3〜3kg程度が軽量銃で4kg位*21から重い銃になります。
 
 その上のクラスが7mm Remington Magnum(比較的反動が軽い)と.300 Winchester Short Magnum(新型)と.300 Winchester Magnum(北海道でよく使われる)です。ここからがマグナムライフルカートリッジに為ります。エゾシカや大型のヒグマにでも問題はありません。ただマグナム系は基本的に精度は劣ります(とはいえこのクラスの銃の有効射程は400〜500mにも達します)。
 日本のヒグマより大きいアラスカのブラウンベア、グリズリーでもこの辺りのカートリッジも多く使われます。
       
>北海道銃砲火薬商組合 非鉛弾QandA エゾシカやヒグマを捕獲するため必要なエネルギーについて
http://okiguns.blog.ocn.ne.jp/kumiai/2004/11/qa__part1.html
   
 .338 Winchester Magnum はデンジャラスゲーム用で大型のヒグマが突撃してきても中れば1発で倒せます。一部で狩猟にも使われる事もある、遠距離狙撃用に現代的な技術で軍用等の目的に近年開発された.338 Lapua Magnum (ラプア)より射程は劣ります。*22*23
    
 .375 H&H Magnumや.375 Ruger Magnumだと反動も厳しく、大型の海獣でも狩らない限り北海道では幾らか過剰でしょう。*24
 他にも夫々の口径で高性能なライフル銃と独自の強力なマグナム弾を展開するWeatherby (ウエザビー)社も知られます。
        
 上で書いたような狩猟用ライフル弾は「対人用」だと200mから800m以上の有効射程距離を持ち、最大飛距離は2kmから6kmにも至り、その半分以上まででは「流れ弾」でも中れば充分な殺傷力を持ちます。*25
 ライフル銃は絶大な威力を持つため日本では厳しい所持制限があります。*26
           
 「麻酔銃」についても少し述べてみましょう。
 よく誤解としてあるのが「麻酔弾」を普通に弾丸に麻酔薬を付けたものだとか、通常の銃器で弾だけ換えれば「麻酔銃になる」との理解です。
 時代劇の「みね打ち」の様に(これもフィクション)通常の銃器の普通の弾丸で撃たれたようになりながら、「死傷」せずあっという間に「眠ってしまう」「気絶する」という「魔法のような」人道的に優しい「殺さない」銃が存在するという理解です。
    
 現実には麻酔弾を通常の銃器で撃つ事は出来ません。
 特殊な空気銃の一種で「注射器」として機能を持つ特殊な弾丸を発射する物です。
 そして麻酔薬の利用はとても難しい物です。現在の医療でも「麻酔医」という専門医が存在するように簡単に使えるような物ではありません。打たれる側の体重や体調に合わせた「処方箋」が必要な高度な技術になります。
 量を間違うとショックで心臓が止まったり窒息して死んだり、倒れた角度や場所で大きな怪我をする等大変危険な「武器」でもあります。
 特に猛獣の場合量が少ないと簡単に麻酔が効かず反撃される場合も有ります。通常効果が出るまで10分程度掛かるようです、もし効いたとしても直ぐには昏倒せず反撃される危険は常にあります。一瞬で効くほどの麻酔を用いると間違いなく死ぬでしょう。
 充分検討したとしても実際に用いられた場合少なくない「動物」が死亡しています。「対人用」の麻酔銃は存在すらしません。
     
 麻酔銃は空気銃の一種で通常の空気銃の弾よりも遥かに重い「注射器」的な機能を持つ弾を用います。
 通常の弾丸より重く命中精度も劣るため20m程度が最大有効射程距離だそうです。大きな危険が伴います。
   
 麻酔薬も現代では「麻薬」的な機能をも持つ事が知られます。麻酔銃でよく使われていたケタミンが規制の対象となった事で麻酔を扱うのは獣医乃至は医師免許が基本的には必要なようです。
 「麻薬取扱者」等、麻酔薬を使える特別な許可も有りますが簡単に貰えません。
 勿論空気銃の所持許可と狩猟免許・狩猟者登録も必要らしいです。。
 麻酔薬の管理も大変で価格も高くそれほど簡単に用いられる物では無いようです。同じ麻酔でも射程は短く(半分程度)とも吹き矢の方が実用的ともいわれます。
            
【参考】
空気銃 CTC AirRifle.com http://ctcairrifle.com/
散弾銃について 吉田銃器 http://www.yjl.co.jp/yjl/clay/rule-shotgun.html
クレー射撃の南京堂 http://www1.ocn.ne.jp/~wes/nankintei.htm
散弾銃 リロードの薦め http://www.dokidoki.ne.jp/home2/banboo/
ファーイーストガンセールス 銃器のコラム http://www.fareast-gun.co.jp/goroku/ 
カートリッジ散歩 http://outdoor.geocities.jp/lynx_leo_wildcat/mp5.html
狩猟大全集 入門編 http://shuryoudaizenshu.militaryblog.jp/ 
狩猟 麻酔銃があまり使われないワケ http://blog.livedoor.jp/hunter00000000/archives/12054089.html
麻酔銃 http://wanline.blog121.fc2.com/blog-entry-122.html
        
 猟銃の所持や使用には厳しい法の規制があり、取得条件も細かで、保管や管理にも警察行政の厳しい監視が行われています。
 残念ながらそれでも何年か毎にですが不心得者が悪用する事件もあり、事故も少なくは有りません。 
    
【関連記事】 
>近代以前の投射兵器の威力を検討してみる その1
http://d.hatena.ne.jp/settu-jp/20120430 

>スポーツハンティング用ボルトアクションライフルの動向(アメリカ中心)
http://d.hatena.ne.jp/settu-jp/20140709/1404884397
         
【追記】現代の戦闘用の銃器の威力についてはこの辺りがわかり易いかもしれません。
>弾の威力の話
http://9uranium2.web.fc2.com/
>弾丸の種類や威力、・ボディーアマー(防弾ベスト)について boulevard ブルヴァール
http://boulevard.fc2web.com/hobby/original/gunslinger/tama/tama.htm  

*1:空気銃は「猟銃」に入れない場合も有ります。

*2:修正

*3:丸型、砲弾型もある。

*4:追記:プレチャージ式空気銃は30〜50J程度から。Daystate Wolverine デイステート ウルヴァリンは130Jを超え.22 Long Rifleに匹敵。

*5:高威力のプレチャージ式は高圧空気の補充・部品の消耗等でランニングコストが高いので丈夫でコストの低いポンプ式は今も現役。

*6:狭義の「猟銃」は散弾銃のみを指す場合もある。

*7:追記しました

*8:修正

*9:散弾のEnergyは通常2000J〜3500Jらしい。

*10:散弾銃のメカニズムでも「昔から有る」上下二連式や水平式も作動が確実なので現在も使われます。手動のポンプアクションや古いデザインの自動銃も信頼性が認められ現役です。主としてスラグ弾用のボルトアクションもあります。現在日本ではライフル銃を改造した(ライフリングを半分除いた)「ライフル銃に近い」ハーフライフリングのボルトアクションや自動銃の「410GAのサボットスラグ散弾銃」もあります。

*11:散弾銃のOOバック等は至近距離では対人用としても有効で軍用としても施設警備用等として用いられ、警察等での暴徒鎮圧用として小粒のペレット弾や非殺傷タイプの弾が使われる場合もあります。

*12:鉛を芯に銅を被せた「ジャケット」タイプの弾頭が標準で目的に合わせた多様な複雑な構造の物が多々あります。

*13:火薬の撃発エネルギーと反動は散弾銃と変わりません。

*14:散弾銃の所持が10年以上無いと所持が認められない。

*15:修正

*16:ライフル弾は既存の金属製(真鍮等)の薬莢(ケース)を基に開口部を広げたり狭めたりして口径を変えたり、短く切り詰めたり伸ばしたり肩の形を変えたりする改造が可能で、銃も勿論加工が必要ですが、オリジナルのカートリッジを作れます。銃も薬室の加工の違いや銃身の交換だけで同じボルトが兼用も可能です。メーカーの新製品も既存の治具を応用する形で用いるので多くの場合既存の規格のケースやブレット(弾頭)を組み合わせ改造して用いるので「似たような」弾が存在しているようにも見えます。しかし銃身の口径やライフリングのツイスト(溝の角度)の組み合わせや火薬の変化、雷管(プライマー)の性能の進歩などによっても新たなカートリッジ可能性が考えられます。アクションの長さ「ショートアクション」や「ロングアクション」の選択など工夫の余地が多いのが特徴です。これからも新しいカートリッジは開発されるでしょう。

*17:対人戦闘の場合は動きは遅く「1発」で確実に「仕留める」目的だけではなく、同じく「銃」で反撃をしてくるという前提でもあり、狩猟は「逃がす」と失敗ですが戦闘の場合目的によっては「逃が」しても(退却させる)失敗ではない。命中率50%程度ともされる。

*18:厳密に言うと.308Winは7.62NATOのバリエーション。

*19:照準器の目盛りの単位でもある。

*20:軍用自動小銃だと3〜6MOAで普通。

*21:修正

*22:.338 Lapua Magnumは本来1.5km程度の対人遠射を目的としたカートリッジです。

*23:ヒグマに対するストッピングパワーについては「ベア・アタックス―クマはなぜ人を襲うか (2)スティーブン・ヘレロ 北海道大学出版会」において、一回り大きいブラウンベア、グリズリーについての同様の見解が示されています。

*24:より強力なものとして狩猟用の.458 Winchester Magnum、.458 Lott、.460 Weatherby Magnum等多数。軍事狙撃用で.408 CheyTac、.416 Barrett等も知られます。

*25:ちなみに銃口Energyは.30Carは約1200J、.223Rem.は約1700J、.308Winで約3500J、.300WinMagで約5300J、.338WinMagも約5300J、.338LapMagは約6700J、.375H&HMagで約6200J、.460WeatherbyMagは約10000J、.416Barrettは12700J。英語版Wikipediaを参照

*26:狩猟用のライフル銃は謂わば「旧式」のボルトアクションが現在も主流です。しかし命中精度に優れ堅牢で比較的安価なボルトアクションは廃れる事は無いでしょう。軍用で多い自動式も有りますが寧ろ古いデザインの信頼性の高い狩猟用のブローニングやレミントン等が現役です。他にもレバーアクションや未だに単発銃、二連式といったそれこそ19世紀からのメカニズムが今でもブラッシュアップされて使われます。ポンプアクションのライフル銃も信頼性が認められ一般的に用いられています。